米大統領選までの投資戦略
コロナショックという過去に例を見ない危機に見舞われている中、11月には米大統領選挙という、不確実性が非常に高いイベントが到来する。
11月までにどのようなスタンスで臨むべきか、足元のリスクファクターやサポート要因を検証し、投資戦略を考察したい。
懸念材料の点検
景気・企業業績の落ち込み
新型コロナウイルスの影響により、景気や企業業績は世界的に甚大なダメージを受けている。
もっともそれは周知の事実であり、焦点は今後の回復ペースである。
それを予測するには、世界で最初に感染が拡大し、そして最初に収束した中国をみればよいだろう。
中国Caixin製造業PMI:2月がボトム、その後V字回復。
米ISM製造業景況感指数:4月がボトムの可能性大。だが回復はまだ弱い。
(TRADING ECONOMICS より)
中国は感染がほぼ完全に収束したのに対し、米国は今でも新規感染者が毎日2万人前後いることが、回復の速さの差になっているのかも知れない。
しかし重要なことは、米・中ともに景気はすでに底を打った可能性が高いということである。
そして、米国よりも感染拡大が遅かった日本の回復はさらに遅れるが、底打ちとなるのはほぼ間違いない。
つまり、過度の悲観は無用ということだ。
米中対立
トランプ米大統領はコロナ対応失敗や黒人人権デモの件で支持率を落としている。
以下、黒が支持、赤が不支持。
(Real Clear Politics より)
11月の米大統領選に向け、対中強硬政策により支持率の回復を狙うとの見方がある。
しかし、警戒された5/29の対中制裁発表での決定事項は、「軍事関係の学生ビザの制限」のみであった(香港の優遇措置を取り消す旨の発言があったが、具体的なことは示されなかった)。
おそらく、トランプとしては中国叩きで票を伸ばしたい一方、経済やマーケットを崩したくない意向もあると思われる。
そう考えると、中国の代わりに、しばらくはWHOなどに矛先を向けるのではないか?
具体的な対中強硬政策が発動されるとすれば、8月以降にコロナからの景気回復が明らかとなり(7月末までは4-6月の最悪の経済指標が続くためその後)、かつ米国株式市場が十分に高い場合と想定する。
米中を巡るリスクの変化は、人民元・ドル相場を要チェック(上方向が人民元安)。
人民元安は5/27をピークに、5/29のトランプ会見以降、人民元高方向に動いている。
米中リスクはひとまず後退しているとみてよいだろう。
企業・新興国の債務懸念
すでに米メーシーズ、ゴールドジム、ハーツ、日本ではレナウンなどの破綻がニュースになったが、市場への悪影響はみられない。
今後も一定程度の企業破綻が発生すると思われるが、セーフティネットの構築により、破綻が連鎖する事態は避けられると思われる。
企業の破綻リスクは、米国のハイイールド債ETFの価格が参考になる。
FRBの政策が奏功してか、価格は大きく戻っている。
新興国のリスクについては、ブラジルレアルやトルコリラの値動きをチェックするのがいいだろう(上方向が通貨安)。
現時点では、急速に進んだ通貨安が修正されつつあることから、過度に恐れる必要はなさそうだ。
感染第2波の可能性
このファクターが最も読めない。
欧米では経済再開が再開され1ヵ月前後経過している。
加えて米国では、黒人の人権を巡る大規模なデモが起こっており、今後1ヵ月以内にも感染が再び拡大してもなんらおかしくはない。
そもそもブラジルやロシアなど新興国では第1波が収まってすらいない状況だ。
そして、北半球で季節性インフルエンザが流行する秋以降には、コロナも再度流行する可能性は否定できない。
もっとも、感染状況については注目度が非常に高いことから、感染第2波の兆候がみられれば、多方面からすぐさま声が上がるだろう。
マーケットが価格下落によって警告を発するまでは、過度に神経質になる必要はないだろう。
米長期金利の上昇
現在、懸念材料の中で最も気掛かりなのがこのファクターである。
足元の上昇は、景気回復に対する楽観や、財政拡張による国債増発懸念が背景にある。
しかし、コロナショック後の株価の回復は、金融当局による利下げと量的緩和によるものが大きい。
つまり、金利低下によって株価が上がったのならば、金利が上昇すれば株価が下がっておかしくない。
FRBは国債の無制限買い入れを行っており、今後はYCC(イールドカーブコントロール)を導入し、引き続き金利を低位安定させるというのが市場の観測だ。
しかし、市場の想定に反して金利の上昇が止まらなくなるようだと、さすがに株式市場は耐えることができずに、急落するだろう。
今後の動向には要注意である。
支援材料の点検
未曾有の金融緩和
すでに世界各国で前例のない規模の金融緩和が行われている。
以下は米FRBのバランスシートである。
無制限のQEを決めたFRBは、急激な勢いで国債等を買い入れ、市場に莫大な流動性を供給している。
リーマンショック後のQE1~QE3がマーケットを押し上げてきたことに鑑みると、それらを軽く凌駕する規模の今回の無制限QEが、マーケットに効かないはずがない。
そして、コロナ対応の超金融緩和は年単位で続く可能性が高い。
この異次元の過剰流動性によって、バブルが生じても何らおかしくないだろう。
前例のない規模の財政政策
各種報道によると、リーマンショック時の財政出動は主要国で3兆ドルであったのに対し、今回のコロナ禍では4月時点ですでに6.1兆ドルと、リーマンショックの2倍の規模を上回っている。
注目すべきは、
- リーマンショック時は数ヵ月~年単位での遅々とした対応であったのに対し、今回はわずか2ヵ月程度で一気に投入されている
- 今回はまだこれで終わりではなく、更なる追加支出が実行されることがほぼ確実視される
- 財政出動の効果は即効性はなく、徐々に発揮される
の3点である。超金融緩和によってマーケットが押し上がってから、財政政策が本格的に寄与してくるという構図だ。
マーケットはそう易々とは下がりそうもない。
ワクチンや治療薬の開発
世界各国で開発競争となっている。
完成時期は不透明ながら、年末から来年央までというのがコンセンサスか?
先進国を感染第2波が襲う前に、完成の目途が付くか否かがポイントとなろう。
特に、感染再拡大リスクが高い秋口までに、進展が見られるかに要注目だ。
過度の期待も楽観もせずに進捗を見守ろう。
相場は相場に聞け!
多くの警戒要因が取り沙汰される環境下だが、日米株価指数は意に介さず、コロナショック後の戻り高値を更新している。
ナスダック総合指数に至ってはコロナショック前の水準をすでに回復し、足元で史上最高値を更新している。
業績・ファンダメンタルズでは買えないが、需給・過剰流動性がマーケットを押し上げる、いわゆる金融相場となっている。
3月の安値からほぼ押し目なく上昇しており、乗れていない投資家も多いだろう。
つまり、圧倒的に買い方有利の状況にある。
結論
ここまでの検証をまとめると、以下のようになる。
- 景気や企業業績、債務問題に対する悲観は不要
- 米中対立は、マーケットを崩すほどの激化は想定し難い
- 感染第2波&ワクチン開発状況は要注目だが中立要因
- 未曾有の金融緩和と財政拡張がマーケットを押し上げる
- 米長期金利の上昇が警戒要因
これらを総合的に勘案すると、8月ごろまでは対中強硬策が出る可能性が低く、未曾有の金融緩和と財政政策による過剰流動性が、相場を押し上げる可能性が高い。
9月以降には、対中強攻策が採られる可能性が高まること、季節的に感染第2波リスクが高まること、大統領選が近づくにつれ警戒感が高まると思われることから、相場は上げ止まりから調整含みの展開になるのではないか。
8月までは米長期金利の動向に注意を払いつつも買いスタンス、9月以降は利食い優先、というのが結論だ。